MENSA社労士の視点

11,610人の社会保険資格が喪失された衝撃

こんにちは。

桐生です。

 

年金事務所からの指導によって、

11,610人の被保険者資格が喪失となりました。

 

年金事務所の調査といえば、

「社会保険の未加入者を加入させる」

という指導をイメージする方が

多いと思います。

 

ですが、今回はその逆。

 

「社会保険に加入している人を

喪失するように指導した」

というものです。

 

勘が良い方はすでにお気付きかも

しれませんが…

 

これ。

 

いわゆる某議員の

国保逃れ問題から端を発した

「社会保険料削減ビジネス」

への行政調査による結果です。

 

行政の資料には、

以下のように記載されています。

 

——————

本来国民健康保険・国民年金が

適用されるべき個人事業主等を対象に、

会費を徴収した上で

法人の役員に加入させ、

使用関係の実態のないまま

社会保険を適用させるサービス

(いわゆる「社会保険料削減ビジネス」)

を行っている事業者が存在。

 

令和8年3月18日付けで、

厚生労働省から日本年金機構等に対して、

社会保険料削減ビジネスのような形態での

社会保険の適用は認められない旨の通知を

発出し、事業所調査を実施中。

——————

 

そして、この調査の結果、

令和8年8月31日時点で

「11,610人の被保険者資格を喪失した」

と発表がありました。

 

で、そこから2週間後の9月14日。

 

厚生労働省から年金事務所に対して

新たな通知が出ました。

 

それが、

「勤務時間が短い正規型の労働者として

事業所に使用されている個人事業主等に

係る被保険者資格の取扱いについて」

というものです。

 

これ。

 

中身を読んでみると、

かなり本気度を感じる内容です。

 

というのも、

勤務時間が短い正規型労働者について、

「その実態に照らして事業所と

常用的使用関係が認められない場合は、

原則として、被保険者資格を有さない

ものとして取り扱うこと」

と明記されているからです。

 

つまり、

契約書上は「社員」に

なっていたとしても、

その会社との間に

「常用的使用関係の実態」

が認められなければ、

社会保険の資格が認められないこと。

 

そして、

その「実態を判断する基準」についても、

より具体的に示されたということです。

 

以前から、桐生はこのブログで、

「これは名ばかり役員だけの問題ではない。

今後は、社員だとしても、

年金事務所の調査が入った結果、

社会保険を強制的に喪失されることは

起こりうる。」

ということをお伝えしてきましたが…

 

その懸念が現実になった感じです。

 

で、こういうことを言うと、

「労働時間の短い雇用はアウトになった!」

という人が必ず出てきます。

 

ですが…

それはまったくの見当違いです。

 

今回の通知を見て、

「短時間勤務は危ない」

と読むのは間違いです。

 

というのも、

行政が見ているのは、

労働時間の数字や契約書の名称

そのものではありません。

 

その会社との間に、

本当に「常用的使用関係」があるのか。

 

ここだからです。

 

簡単に言えば、

社会保険の資格を作るためだけの雇用なのか、

それとも本当にその会社に労務を提供しているのか。

 

行政はそこを見始めたのです。

 

では、

「社会保険の資格が認められる

短時間雇用」と

「社会保険の資格を取得するために

作られた形式的雇用」

の境界線を、

何によって行政が見分けようとしているのか?

 

それが、

・報酬の実態

・労務提供の実態

です。

 

具体的には、

・報酬が業務の対価として

経常的な支払いと認められるか?

・業務が経常的な労務の提供として

認められるか?

といったところです。

 

つまり、

「役員だから」とか

「社員だから」といった

名称ではなく、

 

・契約内容

・報酬額

・お金の流れ

・実際の業務内容

・指揮命令関係

・労務提供の継続性

 

こういったものをつないだ結果で

被保険者資格を判断するということです。

 

そして、会社側は、

今後、調査に入られたときに、

これらの実態を説明できなければ、

使用関係に疑義を持たれて、

「資格喪失の指導をされる」

というリスクがあるのです。

 

実際に、桐生自身も、

ある年金事務所の調査で、

「週の労働時間が短い社員の社会保険を

全員2年前に遡って喪失するように」

という指導を受けたことがあります。

 

そのときは、

桐生が勤務実態をしっかり説明して、

「遡っての喪失」という結果には

なりませんでした。

 

ですが、重要なのは、

「そういった指導をされるケースが

すでに始まっている」

ということです。

 

今までは

「実態があるんだからいいでしょ」

という考えで良かったかもしれません。

 

ですが、

実態があったとしても、

調査の場でそれを裏付ける事実を

示せなければ、

使用関係そのものに疑義を持たれます。

 

だから必要なのは、

「実態があります」

と言うことではありません。

 

・実際に何をしているのか

・その業務の対価として報酬が払われているのか

・会社との使用関係を何によって確認できるのか

 

ここまで説明できる状態にしておくことです。

 

最後に。

 

誤解して欲しくないのですが…

 

今回の通知で、

「資格喪失制度」というものが

新しく生まれたわけではない

ということです。

 

むしろ、

実態の伴わない社会保険が

喪失されるというケースは

以前からありました。

 

ですが、

今回変わったのは、

行政がどこに疑義を持ち、

何を見て使用関係を判断するのかが、

より具体的に示されたことです。

 

これから危ないのは、

「グレーな会社」だけではありません。

 

実態はある。

でも、その実態を会社が説明できない。

 

そんな会社です。

 

契約書を作ることだけが

リスク管理ではありません。

 

契約、報酬、業務、勤務実態が

一本の線でつながっていること。

 

そして、その線を

行政に説明できる状態にしておくこと。

 

そこまでやることが、

これからの社会保険のリスク管理です。

 

桐生 将人