こんにちは。
桐生です。
「あなたの会社の社員10名の
社会保険を過去2年に遡って
喪失手続きしてください」
この通知を受け取った社長は
一瞬何を言われたのかが
わかりませんでした。
というのも、
年金事務所の調査といえば、
「社会保険”未”加入者の強制”加入”」
を指導されるものがほとんどで、
「社会保険加入者の強制”喪失”」
という話は聞いたことが
なかったからです。
経営者だけの目線で言えば、
「強制喪失してくれれば、
支払った社会保険料が
戻って来るからラッキー!」
と言えるかもしれませんが…
現実はそんなことにはなりません。
強制喪失となれば、
普通に働いている
スタッフの健康保険証が
2年前に遡って無効になる
ということです。
そうなってしまうと、
過去2年間の治療費の「7割分」が
一括請求されることになるわけです。
もちろん、無効になった時期まで遡って
国民健康保険に加入することで結果的に
7割分は取り戻せるかもしれません。
ですが、スタッフからすると、
・一時的な金銭負担の発生
・国民健康保険の場合、扶養の人数や
所得によって保険料が高くなる場合もある
・単純な切替等の手間の発生
といったことが降りかかるわけですから
会社に対する憤りや不信感を持つのも当然です。
結果として、
大切な社員の離職やトラブルで
会社に大損害が発生する可能性も
あります。
では、どういった場合に
今回のような「強制喪失」
という指導が入るのか?
結論から言うと
年金事務所が「強制喪失」を
指導する会社には”共通点”が
あります。
それは
「給与が低い会社」
もしくは
「労働時間が短い会社」
です。
なぜかというと、
これらの会社においては、
「社会保険の加入要件を
満たしているのか」
を疑われてしまうからです。
会社としては
「加入させているつもり」でも
年金事務所側から見ると
「そもそも加入資格がない」
と判断されることがあるという
ことです。
会社には色んな事情や雇用形態があります。
・労働時間が短い会社
・分社して複数の会社で
運営している会社
・外注先を使うのをメインに
専門性の高い社員を少しだけ
雇用する会社
等など…
こういった場合に、結果として
フルタイムの労働時間が20時間になったり、
社員の給与が10万円未満となるケースも
あります。
ですが、年金事務所の調査においては、
そういった事情をスルーして、
「単に労働時間が短い、給与が低い」
という理由だけで
「常用雇用とは言えない」
と判断してくるケースがある
ということです。
要は、
「一般的な会社の常用雇用者と比べると、
あなたの会社の社員は常用雇用者とは
言えないので社会保険も対象外」
という理屈です。
本来的には他の会社は関係ないのに、
「社会通念上」という判断のもとで
こういった「強制喪失」の指導を
されてしまうことがあります。
某地方議員の「国保逃れ」が
問題になったこともあり、
2026年3月19日に厚生労働省は、
「実態のない役員に係る社会保険加入
に対する取扱いの通達」
を発出しました。
詳細は通達を読んでいただくことを
オススメしますが、簡単に言えば、
「実態のない役員は社会保険加入要件を
満たさないので被保険者資格を喪失させる」
という内容が記載されています。
この通達はあくまでも「法人の役員」に
対するものですが、その本質は
「社会保険適用は実態で判断する」
ということです。
だからこそ、今回の話は
「社員」の領域についても
他人事とは言えません。
今後、年金事務所の調査においても、
「給与が低い社保加入者の実態」
をより細かくチェックされるケースが
増えていくかもしれません。
では、こういった想定外の「強制喪失」の
リスクを下げるためにはどうすればよいか?
今回は2つの方法をお伝えします。
ただ、その方法をお伝えする前に
「大前提の話」をしておきます。
それは、
「実態がないことをしたらアウト」
だということです。
たとえば、
「社会保険を削減するために、
同じ仕事しかしていないのに、
給与を2分割にして低い給与の方だけを
社会保険の対象にする」
なんてことをしてしまえば、
目も当てられません。
それによって、
強制喪失の指導が入っても
反論は難しいです。
逆に、強制喪失を避けるために、
「実はこの2社に給与を分けていました!」
なんてことを言えば、それはそれで、
過去に遡って削減した社会保険料が
降り掛かって、大ダメージを受ける
ことになります。
だからこそ、
「実態がないのに
社会保険料を削減するためだけに
労働時間を少なくしたり、
給与を少なくする」
ということは避けてください。
あくまでも今回の話は、
色んな事情や雇用形態のもとに
「実態があるのに強制喪失されるリスク」
に対するものです。
では、実際の方法についてお伝えします。
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1.実態を証明できる書面を用意する
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強制喪失の指導が入った場合に
一番危険なのは、
「実態があるのに、
会社側がそれを証明できない」
ということです。
どんなにあなたが
「社員が困ってしまう」
と主張したとしても、
年金事務所からすると、
実態を証明する書面がなければ、
歩み寄ることもできません。
では、どういった書面が必要なのか?
その一つが「就業規則」です。
社員10名未満の会社には
就業規則の届出義務はありません。
なので、就業規則を整備していない
会社も多いかもしれません。
ですが、
給与が低い会社や
労働時間が短い会社は
少なくとも就業規則を用意して
おいた方が良いです。
というのも、
就業規則に特段の規定がなければ、
年金事務所の調査においても
一般的な労働時間である
「1日8時間、週40時間」
のもとに加入要件を判断されてしまう
可能性があるからです。
そうなってしまうと、
たとえば、労働時間が週20時間の会社だと
「週30時間未満(週40時間の3/4未満)なので、
社会保険の加入要件を満たさない※」
と判断されてしまうかもしれません。
※厳密には、所定労働時間だけでなく
所定労働日数も見られます
だからこそ、
週20時間がその会社における
通常の働き方なのであれば、
就業規則にその内容を明確に
規定しておく必要があるという
ことです。
なお、就業規則以外にも、
「実態を証明する書面」としては、
・労働契約書
・出勤簿
・勤務報告書
等が有効です。
こういった書面をしっかりと
用意しておくことで、
年金事務所からの
「労働時間が少ないのではないか?」
という質問に対して、
明確に会社側の主張ができる
ようになるということです。
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2.任意特定適用事業所になってしまう
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これは会社によってやるべきかどうかが
個別ケースになりますが、最も簡単かつ
確実にリスクをおさえられます。
任意特定適用事業所とは何かというと、
「自ら社会保険適用拡大の対象になる」
ということです。
社会保険適用拡大は2022年からスタートして、
2026年の現時点では51人以上規模の会社が
対象となっています。
この社会保険適用拡大の対象になると、
社会保険の加入要件は以下に変わります。
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1.週の所定労働時間が20時間以上
2.月額賃金が8.8万円以上
3.学生ではない
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つまり、もし、あなたの会社の社員が
上記の要件を満たすのであれば、
任意特定適用事業所になることで、
今回のような強制喪失リスクを
おさえることができます。
ただし、特定適用事業所になってしまうと、
今まで社会保険に加入させる必要がなかった
人までも加入対象になってしまう可能性が
あります。
さらに、本来対象ではない会社が
任意で特定適用事業所になった場合、
それを取り消すには労働者の3/4以上からの
同意が必要になります。
コロコロ変えられるものではないので、
会社のコストアップも含めて、
慎重な検討が必要だと言えます。
また、
・週20時間よりももっと労働時間が短い
・給与が8.8万円よりももっと少ない
という場合は、
特定適用事業所になっても
意味がありません。
この場合は、最初に記載した
「実態を証明できる書面を用意する」
という対策をしておくことになります。
今回の話は特殊ケースだと思うかも
しれません。
ですが、今は働き方が多様化していますので、
こういったケースも増えています。
今のうちから対策をしておくことで、
大切な社員の保険証を守ってあげて
くださいね。
桐生 将人
